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思春期の若者が取り組む心の発達課題 -自分なりに生きる道を見出していく-

思春期にはいり、揺れ動く気持ち

子どもは、第二次性徴(男子では精通、女子では初潮)が始まることを境に、思春期にはいります。この時期には、自分の体の変化についての不安が湧く一方、子どもの自分ではなくなり大人になっていくことについての葛藤が起きていることも少なくありません。

体の変化と、同性の仲間集団にはいる不安

そのような中で、同性・同年代の友人たちの集団にはいっていくに際して、以前とは違っていろいろと不安になったり神経質になったりすることもしばしばみられます。自分の体は同性の他の子と比べてどうか、どちらが恰好いいか、男性として/女性として自分は大丈夫なのだろうか等が気になるようになります。そのような性的なことを含んだ悩みは、親には打ち明けづらく、やりとりする相手として、同性の友人の存在がとても大事になります。

親離れで得られる自分らしさ、その一方での不安定さ

親との関係では、親離れが次第に進んでくるため、親の価値観や考え方とは違った気持ちや考えを抱くようになります.そのような本当の気持ちや考えを親の前で表現することは不安や怖さが伴いますが、そのような不安や怖さを乗り越えていくことは、思春期の心の発達にとって、とても重要な課題となります。
そのような親離れは、楽しい面もありますが、寂しい気持ちに襲われることもあります。急に人と関わりたくなったり、それがうまくいかないと引きこもったりし、気分の変動が大きく気まぐれに見えやすいことも思春期の特徴です。

同性の友人関係が大事になってくる

この時期には親離れが次第に進む結果、何でも親の言う通りに従うことには抵抗を覚えるようになり、親の傘の下ではなく、自由に同年代の友人たちと交流することが楽しくなってきます。価値観を共有し、男性として/女性としてどのようにやっていくか、将来どのような道を歩んでいくかについてやりとりするようになります。この時期になると、親の影響よりも友人の影響の方が大きくなり、友人とやりとりする中で自分を作っていくようになってきます。この時期に同性の友人がいない場合には、孤独な思春期を送ることになります。

親離れとともに現れてくる親子の価値観の違い

思春期には、それ以前は100%だった親の存在が、いうならば50%位になり、残りの50%は家族外の様々な人々から取り入れて、こういうことが好きだ、こういう人になりたい、こういう道を歩みたい等の自分の価値観や夢 (自我理想) を作っていきます。具体的には、学校の先生や塾の先生、習い事の先生、友人、憧れのアイドルやスポーツ選手等の存在が大きくなってきます。そのような人々の気に入った所を自分の中に取り入れて自分のものにして (同一化)、親から取り入れた理想像を改訂して、自分なりの理想像を作り上げていきます。自分の頭や心で考えて選んだ道であれば、多少苦しくとも頑張りがきくというものです。
そういうことがあるために、親子であっても考え方の違いや価値観の違いが起きてくるわけです。そしてそのようなことを通して、自分の進路や将来進むべき道を見出していくことが、思春期の大きな課題となります。

性への関心と恋愛

一方、性的な成熟に伴い、大人の体を手に入れていくため、家庭外に恋愛の対象を探し求めるようになります。性的な関心や欲求を表現することは、両親との関係の中では抑えられている訳ですが、思春期の後半にはそのような関心や欲望を開放して(ブレーキをはずして)、異性との関わりをもつようになってきます。

親離れは、思春期の健康な心の発達の証

そのように自分をつくっていくプロセスは、一気に進んだりはせず、時間をかけて徐々に進んでいきます。そのような時期に、いつまでも親の言うことをきく良い子のままであったら、親離れをして個性的な自分を作っていくことが難しくなってしまいます。親にとっては思春期の対応は厄介な点が多々あるものですが、子どもが親離れをして、親とは違う考えをもったり親に反発したりできるようになることが、実は健康な発達路線を進んでいることを意味します。そのような思春期の発達課題を順調に獲得していくためには、自分の力でいろいろ考えたり試したりしていくことが不可欠です。そういう意味で、親の目の届かない個室があること、月ぎめの定額の小遣いがあること等も含め、ある程度の制限はありつつ、その範囲内であれば子どもが自由に考えたり行動できたりするような生活の枠組みが大事となってきます。そこで親の側からの、口出し・手出しが多すぎると、子どもが、自分の考えや感覚を大事にしながらのびのびと自分の世界を作っていく時に、足を引っ張りかねないことになってしまいます。
そのようにして、どのような進路に進んでいくか、どのような異性を選んでいくか等の大きな発達課題に取り組んでいくことが重要となる時期です。

思春期の発達課題の達成にまつわる誇りや劣等感

これまで述べてきたような思春期の発達課題を達成できると、とても自信がついて自分のことを誇らしく思えるようになるでしょう。しかしその発達課題をうまく達成できない場合には、劣等感やみじめな気持ちが湧いてくることもあるかも知れません。
少々不安だけど親に対しても自己主張できるようになっていくこと、同性の集団の中でやっていく上で不安があってもそこそこやっていけるようになること等が達成できたら、思春期の子どもの心は安定し、この道でいいんだと感じ、自我理想という名の明かりが灯り、その光が行く手を照らしてくれるようになると、前向きな気持ちで自分の選んだ道を歩んでいけるようになるでしょう。

思春期の子どもをもつ両親の考えが食い違う時にいかに手を結んでいくか

思春期の子どもへの対応をめぐって起きやすい両親の考えの食い違い

  子どもがどのような年齢にあっても、両親の子どもについての考え方や対応の仕方には食い違いがつきものです。しかし子どもが思春期にさしかかると、親への反発や反抗が増してくることもあり、両親の考え方や対応の仕方の食い違いがきわだった形で表れてくることが少なくありません。

実はどのような夫婦でも夫婦喧嘩は避けられない

  心理学の教えるところによれば、どのような夫婦でも結婚直後の時期から、必ず夫婦喧嘩をすると言われています。そして夫婦喧嘩のきっかけは夫婦ごとに異なりますが、子育てについての考え方や対応のしかたの食い違いもかなり大きな部分を占めていることは、どの御夫婦にも共通しているように思います。

夫婦喧嘩に火がつく時

  子育てのことで夫婦喧嘩が始まると、うまくいかないことはすべて配偶者の落ち度のように感じられ、夫婦で互いに相手を責め合うことがしばしば起きてきます。そして口論が激しくなると、今現在のきっかけとなったできごとから話が離れていき、過去にあった似たようなもめごとを持ち出して相手を攻撃するようになり、口論の火に油を注ぐようなことになり、互いに感情的になり、夫婦喧嘩はおさまりにくくなってしまいます。

両親の夫婦喧嘩が思春期の子どもに及ぼす影響

  そのように夫婦喧嘩が延々と繰り返されていると、思春期の子どもからみると、気持ちが不安定になったり不安が増したりすることにつながります。子どもの前で親が喧嘩をしてしまうと、子どもは、なんとか喧嘩を納めなければいけないと考えてエネルギーを使う、どちらの親の肩をもつべきなのかという葛藤にとらわれてしまう、夫婦喧嘩のつらさに耐えられずに自室にこもる等、様々な大きな影響が生じています。

そして、もし仮に思春期の子どもが片方の親の味方をするとなると、もう一方の親の言うことはきかないことを意味するため、不安や罪悪感にとらわれるという結果を招いてしまいます。また、片親のサポート役を延々と続けることで満足感を得てしまうと、親離れをして前に進んでいくことが難しくなってしまうということも起きてきます。

そのような状態では、親への気遣いでエネルギーを消耗してしまうために、自分の将来やそのための勉強に使えるエネルギーが目減りしてしまいます。したがって、自分らしい人生を生きることが困難になってしまう危険を抱えることにつながりかねません。

夫婦の考えや対応が違っても、少しずつでも手を結んでいく

  夫婦の子育てに関する考えや対応方法が食い違ってしまうのは悩ましいことではありますが、重要な点では両親の考えや方針を一致させていくことが必要となります。また、それに際して、両親の考え方や対応のしかたの違いがうまく作用するなら、子どもの理解や対応について、異なった視点から複眼的にみることができ、よりよい子育てにしていく可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。そのような意味で、子どもへの対応のしかたを相談できる位の関係は回復したいものです。

子どもの前では口論や喧嘩をしないようにする

  そこでまず必要なのは、子どもの前では極力夫婦喧嘩をしないようにすることです。夫婦間で相手に言いたいことがあれば、子どものいないところで二人きりの時にやりとりをするのが賢明です。

世代間境界を明確にしていく

  思春期の子どもは片親と密着関係に陥ることがしばしばあります。それは特に異性の親子関係(母親と息子、父親と娘)で起きやすい傾向にあります。特に親子でタッグを組んで、もう一方の親を攻撃するような過度に密着した関係、スキンシップをもつような関係等、は、満足感が大きすぎるため、それは思春期の子どもの心理的な発達の妨げになってしまう危険性があります。

  そのため、子どもと密着するのではなく、親子間の距離を置いて、親世代と子ども世代の境界を明確にし、対応については困難であっても両親の間で話し合って改善する方向を探っていくことが必要となります。

夫婦喧嘩を上手にしていく

  そこで夫婦喧嘩を上手にしていく工夫が必要になります。互いに相手へのマイナスな感情をぶつけ合っていても、いつまでも前進はみられません

  次に必要となるのは、配偶者を責めて配偶者の対応を変えようとすることから、抜け出していくことです。いくら夫婦であっても、配偶者の考えや行動を変えることは、相手が自らそれを望まない限り非常に困難なことです。実は夫婦であっても、相手を変えるよりも、自分を変えていく工夫をした方がはるかに早く解決の糸口がみつかるものです。

配偶者から投げつけられた耳の痛い言葉こそが重要

  その時に、配偶者から投げつけられた、聞きたくない、耳の痛い言葉が重要となります。

  どのような優れた親御さんであっても、その人なりの接し方の癖のようなものが子どもに対してつい出てしまうものです。そしてそのことは、当の本人からはそのようなものとしては気づきにくく、その問題点は、むしろ配偶者からの方がよく見えるものです。つまり、私たちは、自分の子どもへの接し方の癖については、自分の目からはブラインドになってしまうことが少なくないのです。

  そのために、配偶者を責めることをやめて立ち止まって、自分の接し方の問題について振り返って考えることが必要になってきます。

目の前の子どもの状況に合った、両親で一致できる対応策を一つずつ作っていく

  御夫婦であっても、子どもに対する理解のしかたや対応のしかたは、かなり違っていることが普通にみられます。正反対の考え方をもっている御夫婦も珍しくありません。そのような時に、親としての考え方全体を合わせていくのは、かなりハードルの高い作業になります。

それよりも、今の子どもの年齢や発達段階に見合った接し方について、一致点を一つ、二つと作っていく方が、実はハードルの高さは低く、より合意を作りやすくなります。具体的には、例えば学校に行けていない場合に登校を促すのか/あえて促さないのか、朝起きない子どもを朝起こすのか/起こさず自主性に任せる対応をするのか、等について合意ができるとよいと思います。

そのように御両親の対応が一致していると、子どもの気持ちの中にも安心感が生まれてきます。

御両親だけでも相談は可能

  仮に思春期の子どもが受診に同意しない場合でも、御両親がいかの思春期の子どもに 対応していくのがよいかについての相談は可能です。御両親の考えが食い違っている場合でも、私たちは思春期の子どもの心理的な発達段階や親子関係の状態に見合った接し方・対応の仕方を提案するようにしています。そのような相談にのっていますと、御両親の考え方それぞれに、妥当な点と修正をした方がいい点が含まれていることが実際には多いように思われます。

  思春期のお子様に関する考え方や対応のしかたでお困りな点があるようでしたら、是非御両親での面接を活用されることをお勧めします。

思春期にはいった子どもへの対応の難しさ

思春期の子どもの対応の困難さ

 思春期にはいった子どもは、親からみると対応に苦慮することが少なくありません。

 第二次性徴 (男子の場合は精通、女子の場合は初潮) が始まる頃から、親離れが進んでいきます。これまでとは違って親に話をしなくなる、返事もせずに黙り込む、以前のように親の言うことをきかずに反発する、親に対して不満を言うようになる等も起きてきます。また、自室にこもることが増え、親の目からは子どもに何が起きているのかが見えづらくなってきます。さらに、親に対して「うるさい」「うざい」等と反発するなど親子間の感情的なもめごとも増してきますし、場合によっては暴言・暴力に至ることもあります。一方、そのように激しい反応でなくても、返事をしない・黙っているが言うことをきかない等、静かな反発をする子もいます。

態度や行動で表現してくるための対応の難しさ

  特に思春期の前半(中学生位)は、心の中で何が起きているのかを言葉で表現することをせず、態度や行動の形で親にあたってくるため、親御さんからみると意味がわかりにくい状態になります。

  そのようにして親とは距離をおく一方で、同年代の仲間との交流が増え、例えば大人が容認しづらいようなサブカルチャー(ファッション、髪型、押しのアイドル、ゲーム等)にはまったり、友人のところではこうなんだからと友人のことを例にあげつつ親に反発したりしてくることも少なくありません。

親を嫌っているのではなく、親離れが進みつつあるあかし

  そのような子どもの態度や言動をみると、親御さんとしては、子どもに嫌われてしまったのか、憎まれているのかと悩むことも少なくないことでしょう。

  しかしこれらのことは、子どもが親を嫌うというよりは、心理的な親離れがどんどん進んでくるための現象なのです。親子であっても、親とは違った気持ちや考えをもつようになります。子どもは、いつまでも親の言うことだけを聞くいい子であったら、自分の頭で考え自分の足で歩いていく自立した大人にはなることができません。将来の希望も親の期待とは違った道を進もうとすることも少なくないため、親子の考え方の衝突が起きやすくなります。

思春期は心理的な親離れの時期

子どもは第二次性徴の発現に続いて、男の子も女の子も大人の体に変化することでの期待や戸惑いを覚えます。そしてその時期に、心理的親離れがどんどん進んできます。親子であっても性にまつわる話はしづらく、同性の同年代の友人とのやりとりや相談がとても大事なものになってきます。同性の友人との間で、性に関することをやりとりしたり、異性に関する興味を分かち合ったりすることを通して、男の子として・女の子としての気持ちがはぐくまれていきます。またこの時期には、羅針盤としての親に頼る度合いは半減し、同年代の同性の仲間集団との交流が増し、親とのやりとりよりも友人とのやりとりが楽しく優先度の高いものとなっていきます。そして家族外の様々な人 (学校の教師、塾の教師、習い事の先生、友人、憧れの芸能人やスポーツ選手、ネットの中でのヒーロー等) の良いと思うところを取り入れていきます。そしてそれを通して、将来の夢や理想の自分について、親から受け継いだものから作った幼少期の夢や理想に改訂を加えて、自分なりの夢や理想を作りあげていく時期です。

それまでは何でも親の言うこと聞いてきた子どもが、親とは違った考え方や気持ちを抱くようになり、親から独立した一人の人間として親に対しても意見を言ってくるようになるわけです。そのため、必然的に親子の葛藤や対立が起きるようになります。そのような状況は、思春期の子をもつ親としては、なかなか対応の難しい状況になってきます。

自己主張も反発も、しっかりした大人になっていく一段階

以上のように親子の考えが食い違うといとう困難な状況を通過しないと、子どもはしっかりとした大人にはなれません。そのような思春期の親子関係を心の発達の視点から見ますと、思春期の心理的な親離れは順調に進んでいるということになります。親に対する自己主張や反発は、思春期を越えて人の人として生きていく力を含んでいるので、見込みのあること、対応は困難であっても前向きな現象ということになります。

思春期の反発は抑えつけるのではなく、子どもの気持ちを考えて大目にみる

そのため、理解や対応に苦慮するようになっても、親の思い通りに動かしたりコントロールしようとしたりすることは諦める方がよいように思われます。うちの子も思春期にはいったのだなと考えて、子どもの気持ちや考えを一人の人として尊重しながらやりとりするようにしていくのが賢明な方法ということになるでしょう。

反対にそのような親離れや反発のサインがあまりみられない良い子の方が、思春期を通過していく上では心配になるところがあります。

親離れをして同性の仲間集団にはいれるように

  親離れが進みつつある段階においては、濃厚な親子関係が良いとは言えません。子どもが自分のことは自分でやるようになることが、とても重要となります。具体的には、子ども部屋の中の片付けや掃除は自分でするようにしていく、子ども部屋に必要以上に立ち入らない、子どもの日記やスマホは見ない、月ぎめの小遣いの額を決めて使い方は子どもの自由に任せる等が、子どもの心理的な発達を促進することにつながります。

またこの時期に、親との関係が密接過ぎると、同性の友人関係にはいっていくことが難しくなってしまいます。親から心理的に離れて、同性・同年代の仲間集団にはいっていけることが大事なことになります。子どもが自由に友人と関わったり、自由に外出したりすることについて、心配のあまり制限しようとしたり頻回に連絡をとったりするのではてなく、子どもを信じて、子どもの自由裁量に任せる部分を大きくしていくことが、思春期の時期の対応のコツと言えるでしょう。

本人も意識しきれていない悩みを抱えていることも

  思春期に子どもが抱く悩みの一部は、本人も気づくことのできない無意識の葛藤を含んでいます。そのため、子ども自身にも理由がよくわからなかったり、前向きにやっていこうと頭では考えても無意識のブレーキがかかってうまくいかなかったりすることもでてきます。親御さんが子どもの真意を問いただそうとしても、子ども自身、自分でも気づいていない無意識の悩みの部分があるため、答えられないということも起きてきます。

核家族ならではの親の対応の負担の大きさ

  現代は核家族化が進行し、昔であればいた近所の大人や親戚の存在は希薄になってきています。今議論しているような思春期をめぐる葛藤は、親子だけの間で展開するため、親子双方にとってきついものになりやすいと言えるでしょう。言葉を変えると、親の対応に大きな負担がかかってくることになります。

両親のみの相談も可能

  初台クリニックでは、思春期の子ども自身の相談に加えて、親御さんとして思春期の子どもにどう対応したらよいかの相談 (親ガイダンス) も行っています。仮に子どもが受診したがらない場合でも、親御さんのみのご相談も可能です。

  子どもの思春期にまつわることで親御さんとしてお困りのことがあれば、初台クリニックにご相談下さい。

大人のADHD

生きづらさの背景にある集中力低下

  これまで何とかやってきたが、どうもいろいろなことをしづらい、物事に集中できない、気が散りやすい、学校や職場でもうまくいかない等、生きづらさに気づくことがあります。

  そのような中でも、うまくいかない背景として、注意力や集中力の低下が中心的な問題になっている場合があります。

忘れ物や物忘れ

  例えば、以前から忘れ物が多い、大事な物をなくすことが多い、人から言われたことを忘れてしまう等で悩んでいる場合があると思います。そのような場合に、何とかしようとして、人から言われたことをメモしないと忘れてしまうようなことがあります。また、忘れないようメモをとってもメモがどこにあるかわからなくなるとか、メモをなくしてしまう等の悩みを抱えている方もいます。そして、例えば学校で配布されたプリントがどこにあるかわからなくなる、片づけや整理整頓が苦手、部屋や鞄の中はいつもごちゃごちゃした状態にあることも少なくありません。

気が散って集中できない、なかなかやる気が起きない

10台の方ですと、学校や家での勉強について、集中力が持続しない、なかなか宿題をやるスイッチがはいらない等があります。授業中、短時間で気が散りやすく、集中できず、授業の中身が頭にはいってこないということが起きてきますが、そのような傾向は、あまり関心の持てない科目の場合に顕著になります。一方、生活場面では、周りの刺激で気が散ってしまいやすく、テレビの音や音楽など周りの刺激が多い環境だと、それが気になってしまい、目の前のことに集中できないようなことも起きてきます。仕事や家事の場面では、次々と目に入る様々なことが気になってしまい、あちこちに手を出すのだが、目の前の仕事が片付かないということも起きがちです。

  そのような集中力の低下があると、勉強でも仕事でも、不注意によるミス (うつかりミス) が多くなります。また、好きなことには長く集中できるが、嫌いなこと・興味のないことだと、やる気が起きないということがよくみられます。

遅刻、時間を守れない

外出等の予定があっても、目の前のしたいことに気がいってしまい、短時間何かをするつもりが長時間はまってしまい、予定していた時間に外出できなくなり、遅刻したり待ち合わせの時間を守れなかったりすることも起きることがあります。

心の中に浮かんだことを抑えられなくなりやすい

人間関係では、自分の話したいことがあると、どんどん好きな話ばかりをしてしまい、周囲から浮いてしまうこともあります。そのような中で、思っていることをつい言い過ぎてしまい、人間関係にひびがはいることも起きてきます。あるいは、言いたいことが頭に浮かぶと、ズバッと率直に言い過ぎてしまい、周りが引いてしまうようなことを言ってしまうこともあります。

そのように自分の気持ちや考えが優先になってくるため、順番待ちをすることが苦手という方も少なくありません。

学校よりも仕事場面で表面化しやすい

以上のような傾向が強いと、学校時代はまだ何とかやり過ごすことができても、仕事をするようになると、仕事がうまくいかない・長続きしないということも起きやすくなってきます。そのような状態になると、自分に自身失ってしまったり、自尊心が低下したりというとも起きてきます。

以上のような問題について、自分で気がつくこともあるでしょうが、親しい友人や異性の交際相手から指摘されて気づくことも少なくないように思います。

注意力・集中力低下に気づいた場合には

  これまでに述べてきたような特徴は、診断としては注意欠如多動症(ADHD)に該当するものです。初台クリニックに受診する思春期から成人期にかけての方の場合には、多動傾向はそれほど多い訳ではなく、多動がみられず不注意が優勢な注意欠如症の形をとることがよくみられます。また、少なからぬ割合の方が、得意・不得意のばらつきが大きいという傾向も併せ持っています(自閉症スペクトラム障害ASDあるいはアスペルガー症候群等の傾向)。さらに、注意力・集中力の低下に端を発して、いろいろなことがうまくいいかないために、うつ状態に陥って受診される方も珍しくありません。

いずれにせよ、自分一人で考えたり悩んだりしているだけでは、解決することが難しい問題と言えるでしょう。困っていることについて、医療機関を受診して相談する必要があります。受診した際には、面接を通して細かく困っていることをお聞きし、必要に応じて心理テストを併用し、生きづらさ・やりづらさの背景にある問題を見極めていきます。

注意力・集中力低下に対してできる工夫

生活の中でできる工夫としては、忘れ物をしないよう、大事なものは決まった場所にしまう等のルールを決めることは意味があります。具体的には、下記のような工夫ができるでしょう。

・鞄の中に貴重品を入れておく透明なポーチを活用する。

・貴重品はカバンに紐でつなげておく。

・財布に大きな金額を入れず小銭入れとキャッシュレスにする。

・重要な書類をもらったら入れる決まったファイルを作る。

・メモを保管する場所を決めておく。

・よく目につく所にメモを貼っておく。

・何かに取り組む時は、必要なものだけがあり余計な刺激がない環境を整える。

・何時に次の行動に移るか、時間をあらかじめ決めておく。

・10分~15分程度の短い時間に区切って課題に取り組む。

  また、自分の進路や仕事は、自分に合ったものを選ぶ必要があります。もし、現在取り組んでいることが自分に向かない場合には、より合ったものに取り組めるよう変えられないか、検討する必要があるでしょう。

集中力を上げる薬を活用する

さらに、集中力を改善できる薬を内服するという選択肢もあります。薬がうまく効くと、注意力・集中力が改善し、落ち着いてものごとに取り組むことができるようになります。

注意力・集中力低下で困っている場合はクリニックに相談を

  注意力・集中力については、簡単に人に相談できることでもなく、一人で悩みを抱えていることも少なくないと思います。そのような悩みについて、率直に話し、対応方法についてやりとりすることは、これまでの生活を良い方法に変えていくことにつながります。もし注意力・集中力で悩んでいる方がいらっしゃいましたら、是非クリニックを受診して相談をすることをお勧めします。

(中    康)

人の目を気にし過ぎず、本音を大事にしながら生きる工夫

人の目を気にすることの良し悪し

  人からどう見られるかを気にする心理は誰にでもあります。ほどよく気にするのであれば、それは自分をよりよりものに作り変えていく上で役に立つかも知れません。しかし、人の目を過剰に気にしてしまうと、自分の気持ちや考えという物差しよりも、人の気持ちや考えという物差しが優先されるようになり、自分の本当の気持や考えは心の中で押し殺されてしまう(抑圧)ようになり、心が余計なエネルギーを使うことになり、とても苦しい状態になります。

気にし過ぎが過剰になると

  人からどう思われるかというようなことばかり、しょっちゅう考えていると、考えがことごとく自分を責める悲観的な方向に傾くことが多くなり、否定的な考えの悪循環に陥っていることが少なくありません。

  また、周りにいるすべての人から良く思われたいと願う方もいます。願いとしてはわからなくはないのですが、私たちの実際の人間関係をみてみると、本当に気の合う人は比較的少数で、どうにも気の合わない人や考え方の違う人がいることは、否定しようもありません。

  あるいは、人より常に上にいたいと願う方もいます。自分が本当にやりたいことがあって、その世界で人よりも優れていたいと頑張るのであれば、それは充実した人生になることでしょう。しかし、自分の本当にやりたいことがはっきりしない、あるいは全く見いだせないまま、人より上にいたいという点だけを願うならば、それはとても苦しい生き方をすることになります。

背景にある、同性との間の競争心や不安

  そのような悩みの背景には、男性も女性も、同性同士の関係の中で、自分の方がより優れていたいと願ったり、同性からどのような評価や対応を受けるか心配したりする心理が隠れていることが少なくありません。そのような同性に対する葛藤や不安は、私たち人間が生きていく上で、大きなテーマのようなものです。自分の考えや行動の仕方、生き方等を肯定的にとらえることができ、他の同性からの脅威に不安を感じることが少なくなれば、落ち着いた気持ちで日々の生活や人生を送ることができるようになります。

本音を大事にしながら生きるためには、どうしたらよいか

  それでは具体的にはどのようにしたら、気にし過ぎるところを減らすことができ、神経質な心配から開放されることができるのでしょうか。

  一つは、悲観的な見方にはまっていることに気づいたら、肯定的な考えに切り替えるのもよいかも知れません。『うまくいく可能性もあるんじゃないか』『ずっと続くわけじゃない』『必ず出口は来るさ』と考える訳です。

  二つ目としては、人に悩みを聞いてもらったり愚痴を言ったりするのも、悪くないかも知れません。人に話を聞いてもらうだけでも気持ちは随分楽になり、悩みが整理されることがあります。あるいは自分の悩んでいることについて、人に聞いてもらって意見を聞いてみると、自分では考えもしなかったような意外なとらえ方・考え方を発見することは結構よく起きるものです。

三つ目としては、何か人と気になるやりとりがあったとするなら、その当事者である相手に、どう思ったか確認してみるのも、一つの方法です。

四つ目としては、いい加減な言葉を使って、少しいい加減に生きていきましょう。『何とかなるさ』『まあ、いっか』『明日は明日の風が吹く』といった言葉を思い浮かべることも一つの方法です。

五つ目としては、気分転換は悪くない方法です。大変なこと、辛いこと、傷ついたこと、そういうことをしばし忘れる、何かに打ち込んで楽しむ、それを通して喜びを味わうということができたなら、自分の本当の心を取り戻し、周りの意向を気にし過ぎることなくマイペースで生きていく上で、プラスに作用するように思います。

最後に六つ目として、しかし一番重要なことは、自分の本当の気持ち考えを大事にする、自分の心をもう一度取り戻すということでしょう。自分の気持ちや考えという、自分なりの物差しを第一にして、表現したり主張したりするようにしていきます。人にどう思われるかよりも、自分が今日できることをやる、納得できる1日を送るようにしていきます。

もしうまく整理がつかない悩みがあるようでしたら、初台クリニックで御相談下さい。

(中 康)

うつのつらい時期をやり過ごす工夫

うつ病初期の症状が強くつらい時期

 うつ病は、何らかのストレスや疲労が蓄積して、自力では回復しにくい慢性疲労状態に陥ったことを意味します。睡眠導入剤や抗不安薬 (いわゆる安定剤) は即効性があります。しかし、気分の落ち込み・やる気がでない・起きて動くことが大変・考えがまとまらない等のうつ症状を改善する抗うつ薬が効果を発揮するまでは、概ね2週間程度かかります。

 具合が悪くつらいのに、良くなる見通しがはっきりしない、良くなっているとあまり感じられない、そして頭の中は悲観的な考えが駆け巡りやすいような、不安になりやすい時期です。

まだ抗うつ薬があまり効かない時期の工夫

  具合が悪い時は、無理をせずに休む、手を抜く、人に任せる等の対応をするのがよいでしょう。横になって休んでいたり、ごろごろ・だらだらしていたり、寝たり起きたりの生活をしたりしていて構いません。このような時に無理をして動こうとすると、蓄積疲労がさらに積み増しになり、状態がさらに悪化することもあります。うつ症状が回復してくれば、自然と動けることが増える段階がいずれやってきます。そのためにも、通院や服薬は中断せずに継続する必要があります。

  周りからどう思われているか、周りに迷惑をかけているのではないか、また元気な自分を取り戻すことができるのだろうか等、不安や悲観的な考えが湧きやすい時期ですが、まずは御自分の心身の休養が第一です。

 そのような時に覚えておいてよいことの一つは、うつ病の場合、早朝から午前にかけてが最も調子が悪い時間帯だということです。早朝に目が醒めてしまう、目は覚めるがなかなか床から出られない、起床直後の気分がひどく落ち込んで辛い等の状態になるのですが、それはうつ病の症状のサイクルなので、病状が悪くなってしまった訳ではありません。

このような時期には、家事や外出など、何かする時は午後の後半や夕方からにした方が、動きやすいかも知れません。

 しかしうつ病は、症状が良くなる時期がいずれやってきます。苦しい状態がずっと続くのではなく、出口は必ずやってきます。いずれ回復することを信じ、回復を待つ必要があります。とはいえ、不安に思ったことは主治医に相談し、不安を解消していきましょう。

 うつ症状があるため、考えが悲観的になってしまうことがよくありますが、それは自分の本心とは異なります。そのため、大事な決めごと(仕事のこと、生活面のこと)は、元気になるまで棚上げにすることが賢明です。

薬が少し効いてきた時期の工夫

 薬が効いて症状が徐々に改善するようになります。そうなってくると、段々良くなっていく実感が持てるようになり、そのうち良くなるだろうというイメージを持ちやすくなり、希望が見えやすくなります。

 しかしとても疲れやすく、頭で考えたようには動けないことが少なくありません。頭では動けると思っていても、自分では十分意識していないが、とても疲れ切った自分の一部が水面下に隠れているのです。

 このような時期に、今日は調子がいいと思って頑張って外出したり家事をしたりするなど、これまでなかったような行動をとると、後から疲れがどっと出ることがあります。当日の夕方から夜に動けなくなったり、翌日寝込んで動けなくなったりすることが、しばしば起きます。このような調子のアップダウンを繰り返すジェットコースター状態が、とてもよくみられますが、疲れて動けないのは無理に動いた疲れに対する一時的な反応なので、病状そのものが本格的に悪化したわけではありません。調子が良くても、動く時間や仕事量を少し減らすと、後からの疲れや伸びて動けない程度がましになります。

要は、疲れ切っている自分の心身の声を聞く必要があるわけです。焦って無理して動こうとしないことが大切です。

 この時期には、遠慮せずに、家族に援助を頼み、家事等はしばらくの間は肩代わりしてもらうのが良いでしょう。また家族や知人がよかれと思って、外食や外出、旅行などの提案をすることがとてもよくみられます。しかし、本人にとっては過大な負担となってしまうことが、少なくありません。何か提案を受けても、自分の気がのらない場合は、周囲に合わせて無理をして動くのではなく、断ってゆっくり過ごした方が、回復にはよいといえます。

 ここで必要なことは、自分が今できることの限界を越えないよう、上手にセルフ・コントロールをしていくことです。それができるようになると、回復した後で、うつ病の再発予防にそのまま生かすことができます。

どこまで回復することをめざすか

 うつ病は、少し良くなればよいのではなく、一番元気だった自分を取り戻していくのが治療の目標にするのが良いでしょう。少し良くなったからといって、焦って何かに取り組むと、うつ症状が悪化する危険か高くなります。そのため、まずは普通に元気な生活ができるよう、もともとの自分の調子を取り戻していくことが必要です。そのような回復の道筋について主治医とよく相談しながら、御自分のセルフ・コントロール力を増していけるよう工夫をしていきましょう。

 (中    康)

新型コロナウイルス(COVID-19)流行期に生きるストレス

  新型コロナウイルスの流行が報告されてから10か月がたちますが、いまだに収束の兆しは見えません。国や自治体が感染対策を強化すると感染は一時的に減りますが、感染対策を緩めるとすぐに感染が増加し、社会全体が新型コロナウイルスへの対応のしかたを手探りで見出そうとしているように思われます。

在宅勤務のメリット、ディメリット

  仕事の面では、感染予防のために在宅勤務(リモート・ワーク)が増えてきていますが、在宅勤務にもメリットとディメリットがあります。通勤しなくてよいことは楽になる要素もありますが、その一方で、気分転換がしにくい、つい長時間働く結果になってしまう、同僚や上司とのコミュニケーションが減ってしまう、それによる孤立感・不安・もやもやした気分が蓄積していく等、様々なディメリットもあります。

在宅勤務のストレス

  また、在宅勤務と外出する機会の減少とが合わさって、家族同士が一緒に過ごす時間が増えることでのストレスもあります。ほどよく心の距離をとることで何とかバランスをとっていたものが、夫婦や親子の対人距離が縮まることによって、元々あった葛藤が強まり、ストレスが増し、限界を越えそうになることもあるかと思います。

  そして、高齢者や小さい子どものいる家庭では、感染の危険について特に大きな心配があるでしょう。

  さらに、子どもの学校が休みになったり、幼稚園や保育園で預かってもらったり、自分や配偶者が在宅勤務になったりすることが重なり、女性に様々なストレスが蓄積しやすい傾向があるようにも思われます。

出社勤務のストレス

  その一方で、在宅勤務から出社勤務に変わることでも、ストレスがあります。新型コロナウイルス感染の不安はもとより、新型コロナウイルス流行のために、出張が制限される、オンラインでの業務が増える等は、普通にみられる変化でしょう。新型コロナウイルス流行によって仕事が減ることも多くみられます。そのような新型コロナウイルスに関係したストレスに加えて、職場の異動や上司の交代などが重なった場合、複数のストレスが重なって、さらに強いストレスとなって私たちの心に降りかかってきます。

休職や失職の不安

  仕事の種類によっては、対人接触が濃厚な職種の場合には、休業や時間短縮を余儀なくされ、収入の減少が避けられなくなります。また非常勤の勤務継続を打ち切られたり、失職したりする方もどんどん増えつつあります。

  そしてさらに、新型コロナウイルス流行が、この先いつまで続くのか、どのような経過をたどっていくのか、自分の生活がどうなっていくのかが、不透明で見通すことができないことも不安をかきたてます。また社会の中で、新型コロナウイルスへの対応をめぐって、感染対策に重点をおく考えと経済対策に重点をおく考えが、全世界的に対立関係にあり、不安につながります。

見通しのもてないストレス

  しばらく前から、自殺する方のニュースも度々報じられますが、そのことも暗い気持ちに拍車をかけます。さらに、新型コロナウイルス流行の影響は、今後、経済的な面でも生活面でも心理的な面でも、さらに大きな問題となって、私たちの上にのしかかってくるように思われます。そして新型コロナウイルス流行の影響によって、私たちの社会や職場や家庭が既に抱えていた問題があぶりだされ、その問題が表面化していくところがあるように思われます。

ストレス症状とそれへの対応

  これまで述べてきたようなストレスから、不眠、不安、食欲低下、気分の落ち込み、悲観的になる、朝起きるのが困難になる、仕事に行く気が起きなくなる、様々な体の不調などが生じてくることがあります。

  対策としては、自分の限界を越えるようなやり方を避け、必要な人間関係を回復し、過剰な人間関係があればほどよい関係に戻し、ストレスがある中でも自分らしい生活のしかたをもう一度取り戻していくことが必要ではないでしょうか。(具体的な対策については、別コラム「新型コロナウイルス流行期間の温覚勤務」もご参照ください。)

  初台クリニックでは、新型コロナウイルスに関係して様々なストレスの相談にも応じております。病気の状態とまではいかなくても、小さな悩みでも構いませんので、是非お気軽にご活用ください。 

 (中    康)

新型コロナウイルス流行期間の遠隔勤務

アメリカ合衆国の職域メンタルヘルスセンターの提言を翻訳したものです(原著:Working Remotely During COVID-19

あなたの心の健康と生き生きとした暮らしを守るために

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行は、かつてなかったような新たなそして大きな挑戦が求められるものとなっています。ここでは、このウイルスをめぐる未知の領域の道案内をしながら、新たな取り組み方や協力のしかたについて新しい道筋を見出し、同時に私たちの心の健康や生き生きとした暮らしを守れるような方策についても目を向けたいと思います。

  多くの方々が、初めて、同僚や友人・家族から離れて、フルタイムでの遠隔勤務(テレワーキング)を体験しています。私たちの今まで通りの日常生活は乱されてしまい、そのために身体的・精神的・経済的な不安やストレスや緊張が高まっています。このような混乱や不確かさの結果、不安やストレスにつながっていくことは、至極当然のことです。今、かつてないほどに、私たち皆が、私たち自身の心の健康や生き生きとした暮らしを大事にしていかなければなりません。私たちが、コロナウイルスの感染から身を守ろうとする際に、人との間に距離をおく(ソーシャル・ディスタンシングsocial distancing)ことは、社会的に孤立する(ソーシャル・アイソレーションsocial isolation)ことを意味するものではないということを心に留めておく必要があります。

自分の健康や生き生きとした暮らしを、どのように維持していくか

▶ 規則的な日課を守りましょう

  必ず行うこと(ルーティンroutine)やスケジュールを作り、それを守りましょう。あなたや家族それぞれが、働いたり勉強をしたりする決められた空間を準備しましょう。あなたの予定の中に、英気を養うための定期的な休憩時間を入れることを忘れないで下さい。スケジュールは人によって違ったものになるでしょうが、ここに一例を示します。

時間活動
7:00AM起床、ストレッチ (子どもや動物の世話)
7:30AM朝食、家族の時間 (テレビやスマホなし technology free)
8:30AM-12:00PM仕事、最新情報を調べる、およそ30分ごとに小休憩
12:00PM- 1:00PM昼食休憩、新鮮な空気を吸う、ストレッチや運動
1:00PM – 5:00PM仕事、30分ごとに休憩、同僚と連絡をとる
5:00PM – 7:00PM夕食時はテレビやスマホの画面を見るのは休憩 !、友人・家族・愛する人と話す
7:00PM – 9:00PM自分自身のための時間 (セルフ・ケアの時間 self-care time)

▶ 人とつながり続けましょう

 家族、友人や支援システム(support systems)と、電子機器(facetime, skype, google hangoutその他のビデオ通話のできる手段)を使ってつながり続けましょう。あなたの恐怖や心配について、あなたが信頼する人々と話し合いましょう。あなたが信頼している人々も、あなたと同じように感じている可能性があるので、そこにつながれるチャンスがあります。

 免疫システムを強く保ちましょう

  次のような方法で、免疫を強く保つことを確実にしましょう。

  •  手を石けんを使って20秒間洗いましょう。
    (あるいは、ハッピー・バースデイを2回分歌う時間 ! )
  • 睡眠を十分にとりましょう。
  • よく食べて、水分も十分にとりましょう。
  • ビタミンをとりましょう。

 自分自身の感染予防を優先し、人との接触を減らしましょう

  これは、コロナウイルスが広がるのを防ぐ上で、必要不可欠です。なすべきことは、次のようなことです。

  • 再度繰り返しますが、手を石鹸と水で20秒間十分に洗いましょう。定期的に手指の消毒剤を使いましょう。
  • くしゃみや咳をする時は、口や鼻をティッシュ・ペーパーで覆いましょう。もしティッシュ・ペーパーがない時は、服の袖で覆いましょう。
  • 通行の多い場所や、生活や仕事の中で頻繁に触れる物は、除菌シートで拭いて消毒しましょう。
  • 体調の悪い人に接触することは避けましょう。自分の顔(目、鼻、口)に触ることを避けましょう。
  • あなた自身の体調が悪い場合は、家で過ごしましょう。

▶ 運動をして活発に過ごしましょう

 運動は、あなたの身体面の健康に良いばかりでなく、あなたの精神面の健康にも良い影響があります。定期的に、朝起きたら家の周りを回ってみましょう。歩く、ストレッチ、体幹トレーニング (プランク・トレー二ング,planks) あるいは跳躍運動 (挙手跳躍運動,jumping jacks)など運動ならどのようなものでも、あなたのストレスを減らし、脳内のエンドルフィンを増やすのに役立ちます。今の時期は、私たちが普段通っているジムやフィットネス・センターは閉鎖されているかも知れませんが、多くの施設が、自由に使える生配信やアプリを使用したトレーニング・プログラムを、会員の方向けや一般向けに提供しています。どのようなものが活用できるか、オンラインでチェックしてみましょう。

▶ 新鮮な空気を吸いましょう

もし状況が許すなら、外に出かけて速足で歩き、新鮮な空気を吸いましょう。ただし、人が密集した場所は避け、他の人との密接な接触は避けましょう。

▶ 情報を把握しておきましょう

知識は力になります。新型コロナウイルスとの闘いにおける進歩について、最新情報を得るようにしましょう。米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control, CDC)及び世界保健機構(WHO)のような信頼できる情報源から、最新情報を得るようにしましょう。

▶ メディアの過剰な視聴は控えましょう

不安やストレス、パニックの引き金になったり高めたりするようなニュース、メディア、ソーシャル・メディアを見続けることは避けましょう。情報は得る必要がありますが、メディアの過剰な視聴は控えましょう。

▶ 仕事のスケジュールの限度を守りましょう

家を離れて仕事をする際には、無理のない妥当な労働時間になっているかどうかに注意しましょう。在宅で仕事をする際には、もっと仕事をしたいという誘惑にかられることがあるかも知れません。しかし、そうしてしまうとあなたの健康や生き生きとした暮らしに負担となってしまうので、健康的な限度のあるスケジュールを守るようにしましょう。

▶ 気晴らしと気分転換

あなたの暮らしを生き生きとさせるような活動に取り組むことは、喜びをもたらし、目の前にある難題からあなたの気分をそらしてくれます。例えば、瞑想やヨガも良い方法ですが、多くの場合オンラインで無料で提供されています。その他にも、日記をつける、読書をする、芸術にいそしむ、新しいレシピで料理を作る、呼吸のエクササイズ(breathing exercise)、気持ちが落ち着くような音楽を聞く等の方法もあります。

▶ 創造的な取り組みをしましょう

あなたにとってどのようなことが良い結果につながったかについてのヒントを、同僚や友人と分かち合い、同じようなことをするよう勧めましょう。例えば、Google hangout(ビデオ会議ツール)を使って、お互いが都合つく時間に、1分間一緒に体幹トレーニング(plank training)をする、挙手跳躍運動(jumping jacks)を10回やるというような、新しいアイデアを試してみるのもよいでしょう。内容はどのようなことでも良いのですが、単純なことの方がよいでしょう。あるいは、飼っているペットが、新しい生活習慣の中でもいかに楽しく暮らしているかについて、写真を共有するのも良いかも知れません。互いにつながり合うための創造的な方法には、限界はありません。

困難な時期に、自分の心の健康をいかにうまく管理するか

上記の情報は、あなたが精神的な不調を体験している・いないにかかわらず、誰にでもあてはまることになります。ここでは、精神的な不調があると診断されている方に対して、追加のアドバイスをお伝えします。

▶ 治療や服薬を続けましょう

  • 生活パターンの変化があったとしても、あなたの治療計画に従っていくことは非常に重要なことです。
  • もし症状が変化したり、この困難な時期の不安を取り除く必要があったりする場合には、治療を提供してくれる機関に連絡をとり、オンラインでの診療を行っているかを確認しましょう。メンタルヘルス分野でのオンライン診療は広がりつつあり、ケアにつながる重要な方法となります。
  • 最新の薬が手元にあるかを確認しましょう。もし薬が少なくなる心配があるようであれば、あなたの医療サービス提供者 (health care provider) に60日あるいは90日処方をしてもらえるよう求めましょう。
  • 風邪薬やインフルエンザの治療薬は、抗うつ薬や抗精神病薬と相互作用があることもあるので、もしあなたが市販薬を服用している場合には、あなたの医療サービス提供者 (health care provider) に相談するようにしましょう。

▶ 新型コロナウイルス(COVID-19)の症状に対応しましょう

もし新型コロナウイルスと関係した症状があるような場合には、最初にあなたのプライマリーケア提供者 (primary care provider) に連絡をとり、次のステップについて相談しましょう。このウイルスは病院の機能に負担をかけ続ける傾向があるため、病院の救急外来を受診するよりも、プライマリーケア提供者から、あなたがどうしたらよいかについての指示を受けることが一番です。

▶ 注意サインや引き金を覚えておきましょう

あなたのメンタルヘルスや健康全般や生き生きした生活に関して、新たな症状の出現や症状の悪化がないか、注意を払い続けましょう。あなたのストレス・レベルを低く保つために最善を尽くし、上に挙げたような活動に取り組みましょう。そうすることが、この混乱した時期に、あなたのストレス・レベルをコントロールしていくのに役立ちます。

▶ 支援ネットワークに参加しましょう

あなたの人生の他の大きな変化に際してと同様に、家族や信頼できる友人たちとつながり続け、この困難な時期にあなたが追加の支援を必要としているのなら、そのことを伝えましょう。具体的には、定期的な電話や連絡、あるいはそれに類した支援があげられます。
この時期にあなたが何を必要としているかについて、はっきりと伝えましょう。

管理者や人事担当者は、従業員を支援するために何ができるか

従業員に職場外で過ごすことを求める多くの組織において、従業員との定期的なコミュニケーションを奨励・促進することは、これまでにも増して重要となってきます。ここでは、管理者や人事担当者が、従業員が職場や同僚とつながり続けることを援助する際のヒントをあげてみます。

▶ 従業員に対して共感を示し、従業員に対応できる状態を保ちましょう

従業員たちは、新型コロナウイルスの現状について、圧倒されるような気持ちや不安を抱いているということを理解しましょう。あなた自身が、スタッフとその恐怖について話し合い、質問に答え、仕事やその他の起きうることについて安心できるような言葉がけをできるような状態を保ちましょう。

▶ コミュニケーション・ツールや会議ツールを使って、従業員とのつながりを保ちましょう

定期的な連絡のために、ZoomやJoin Me等のオンラインで会議ができる手段を用い、チームメンバーが互いに“面と向かって(face-to-face)”つながり合えるようにしましょう。

▶ 孤立したり孤独になったりすることの影響を認識しましょう

このような状況は、従業員がオンライン・トレーニングで自らの技術を磨く、絶好の機会となります。他のことをあれやこれやと心配し続けるのではなく、学習に集中することは、良い気分転換にもなります。オンライン・トレーニングや新しい学習の機会をつくり、従業員に勧めましょう。

[原文ではここの最後に「Employee Assistance Program(EAP)やOrganization’s health planに連絡をいれましょう」という項目がはいっていますが、制度が日本と異なるため割愛しました。日本においては、職場の健康管理部門の保健師や産業医と連携しながら対策を立て、どのようなサービスが受けられるかについての情報を従業員に伝えていくことが有用かと思われます。]

(翻訳: 中 康)

不安やストレスをうまく乗り越えよう

アメリカCDCの提言を翻訳したものです(原著:Stress and Coping

ストレスへの対処方法

新型コロナウイルス感染症の集団発生(outbreak)は、私達にとってストレスとなります。病気に関する恐怖や不安は非常に強いもので、大人も子どもも強い感情を呼びさまされます。ストレスにうまく対処することによって、あなたや、あなたが世話をする人々や、あなたの地域社会を、より強くすることができます。

誰もが、ストレスに満ちた状況に対して異なった反応をします。

集団発生に対してあなたがどのように反応するかは、あなたの個人的な背景や、あなたが他の人々と違っているところ、それからあなたが住んでいる地域社会によって異なります。

危機的なストレスに対して、より強い反応をするかも知れない人は次のような人々です。

  • 新型コロナウイルスに対してリスクが高い高齢者や慢性疾患に罹患している人々
  • 子どもと10代の若者
  • 医師や、その他の保健医療従事者、最初に援助にあたる人々(first responder)のように、新型コロナウイルスに対する様々な反応(response)に対して援助にあたる人々
  • 物質使用(substance use)の問題を含む、精神保健上の不調(mental health conditions)を抱えた人々

感染症が集団発生した際のストレスには次のようなものがあげられます。

  • あなた自身の健康やあなたが愛する人々の健康に関する恐怖や心配
  • 睡眠や食事などの生活習慣の変化
  • 不眠や集中力低下
  • 慢性的な健康問題の悪化
  • アルコール、タバコ、その他の薬物使用の増加

以前から精神保健上の不調を抱えた人々は、治療を継続していくとともに、症状が新たに出現していないか、症状が悪化していないかについて注意を払う必要があります。

あなた自身のケアを行うと同時に、あなたの友人、あなたの家族のケアをすることは、あなた自身がストレスに対処していく上での助けになります。他の人が抱えているストレスに対処できるよう援助することは、あなたの地域社会を強くすることにもつながります。

自分自身をサポートするためにあなたができること

  • ソーシャルメディアを含め、ニュースを見たり読んだり聴いたりし続けることは避けましょう。大流行(pandemic)について繰り返し耳にすることは、気持ちの動揺につながる可能性があります。
  • あなた自身の体のケアをしましょう。深呼吸をしたり、ストレッチをしたり、瞑想をしたり(meditate)しましょう。健康的でバランスの良い食事をとり、定期的に運動をし、十分な睡眠をとり、アルコールや薬物の使用は避けましょう。
  • 緊張をときほぐす時間を作りましょう。あなたが楽しめることで、何か別の活動を試してみましょう。
  • 他の人と連絡をとりましょう。あなたが信頼できる人と、あなたが心配になっていることやあなたが感じていることについてやりとりをしましょう。

もしストレスが、何日も続けてあなたの日常生活の妨げになるようであれば、あなたの健康面のケアの提供者(your healthcare provider)に連絡をとりましょう。

あなた自身や他の人々のストレスを軽くしましょう。

新型コロナウイルスについての事実を共有し、あなた自身やあなたが気にかけている人々への実際の危険を理解することは、ウイルス感染の集団発生(outbreak)のストレスを軽くします。

あなたが新型コロナウイルスに関する正確な情報を人々と共有するなら、あなたは人々が感じるストレスを軽くするのを助けることができ、またあなた自身がそれらの人々とつながれるようになります。

御両親へ

子どもや十代の若者は、自分たちの周りにいる大人の様子を見て理解したものによって反応する部分があります。もし御両親やその他の養育者の方々が、新型コロナウイルスについて冷静に自信をもって対処することができるなら、それは子どもたちにとって最も良い援助となります。御両親の側でよりよい準備ができていれば、周りにいる人々、特に子ども達に対して、相手を安心させ元気づけるような対応をすることができます。

すべての子どもや十代の若者が、ストレスに対して同じように反応するわけではありません。一般的には、気をつけた方がよい変化は、次のようなものになります。

  • 幼い子どもが過度に泣く、あるいはイライラした様子を見せる。
  • 成長によってすでに見られなくなった行動に逆戻りする。(例えば、トイレの失敗、おもらし)
  • 過度の心配や悲しみ
  • 不健康な食習慣や睡眠
  • 十代の若者においては、イライラや「行動化」
  • 学業不振や欠席
  • 注意力の低下、主注力の低下
  • 以前は楽しんでいた活動を避ける
  • 原因不明の頭痛や体の痛み
  • アルコールやタバコ、薬物の使用

あなたが子どもたちを援助するためにできるたくさんのことがあります。

  • あなたの子ども(あるいは10代のティーンエージャー)と、新型コロナウイルスについて話す時間をとりましょう。あなたのお子さん(あるいは10代のティーンエージャー)が理解できるようなやり方で、新型コロナウイルスについての質問に答え、事実を共有しましょう。
  • あなたの子どもに、あなたは安全だと伝えて安心させてあげましょう。もし子どもが動揺したりしていても、それはOKなのだと伝えてあげましょう。あなた自身のストレスについてあなたがどのように対処してきたかを、子どもたちと分かち合いましょう。そのようにすれば、子どもたちは、どのように対処すれがよいかをあなたから学ぶことができます。
  • ソーシャルメディアを含め、あなたの家族が、コロナウイルスに関するニュースにさらされるのを制限しましょう。子どもたちは、聞いたことを誤解する可能性があり、彼らが理解できないことについて恐怖を覚えることがあります。
  • 決まりきった習慣(regular routines)は続けるようにしましょう。もし学校が閉鎖された場合には、勉強の時間やリラックスして楽しむ時間について予定を立てましょう。

支援に携わる方々(responder)へ

新型コロナウイルスに関する支援を行うことは、気持ちの上で負担となる可能性があります。二次的な心的外傷性ストレス(secondary traumatic stress, STS)反応を減らすために、あなたができることがあります。

  • 心的外傷となりうるできごとを体験した家族を援助する人であれば誰でもSTSに陥る可能性があることを知らせましょう。
  • 身体症状(疲労、病気)と精神症状(恐怖、ひきこもり、罪悪感)の両方について知識を得ましょう。
  • あなた自身やあなたの家族が、大流行(pandemic)への反応から立ち直るのに、時間を
  • 与えましょう。
  • あなたが楽しめるような、個人的なセルフケア活動のメニューを作りましょう。例えば、友人や家族と一緒に過ごす、運動、読書などです。
  • 新型コロナウイルスについての報道に接することに、休みを入れましょう。
  • もしあなたが、新型コロナウイルスの問題が、あなたが集団発生(outbreak)以前のように、あなたの家族や患者をケアする能力に悪影響を及ぼしているという気持ちに襲われたり心配になったりするなら、助けを求めましょう。

検疫のための隔離(quarantine)から解放された方々へ

ヘルスケア提供者があなたが新型コロナウイルスにさらされたと考えた場合、他の人々から引き離されるということは、あなたの具合が悪くないにしても、ストレスに満ちたことです。検疫のための隔離から解放された時に、一人一人が異なった感情を抱きます。

そのような感情とは、次のようなものです。

  • 検疫のための隔離から解放された安堵感を含む、入り混じった感情
  • あなた自身の健康や、あなたが愛する人々の健康についての、恐怖や心配
  • 新型コロナウイルスの症状を、あなた自身がチェックしたり、他人に監視されたりする体験からくるストレス
  • あなたが人に感染をさせるまいと固く決心していたといても、あなたの友人や愛する人々が、あなたと接触して病気をうつされてしまうという根拠のない恐怖を抱いていることへの悲しみや怒り
  • 検疫のための隔離期間中、普通に仕事をすることができなかった、あるいは親としての義務を果たすことができなかったという罪悪感
  • その他の、情緒的な変化あるいは精神面の変化

子どもたちも、子どもたち自身あるいは彼らが知っている人々が検疫のための隔離から解放された時には、気持ちが動揺したり強い感情を抱いたりすることがあります。あなたの子どもがそれに対処していくことを、あなたが手助けすることができます。

(翻訳: 中 康)

家族がうつ病にかかった時の理解と対応

調子の悪さを感じとる

  うつ状態にある時は、表情が暗く沈んだ感じになり、表情の変化も少なくなります。夜眠れなくなったり、食欲がなくなって食事量が減ったりします。悪い方向の考えばかりが浮かびやすくなるため、話も悲観的になります。動きが少なくなり何事も億劫そうに見えます。ずっと同じ姿勢を続けていたり、横になることが多くなったりしますし、特に午前中を中心に横になって過ごすことが増えます。外出が減り、仕事を休むようになったりし、それまで楽しんでいた趣味や異性にも関心を示さなくなることもしばしばみられます。以上のような症状が、特に早朝から午前にかけて強まりますが、軽症の場合には夕方から夜にかけては結構元気になることがよくあります。しかしより重い症状になると、1日横になって過ごすようになることもあります。

本人の訴えは、額面通り受け止めてよい

うつ状態にある場合、中等度の症状であれば家族が見てわかることが結構ありますが、軽症のうつ状態の場合は、周りからは症状をはっきりとはとらえにくいことがあります。一見した状態よりも、本人はもっと苦しんでいることが少なくありません。そのようなわけですので、本人の訴えは額面通り受け止めた方がよいでしょう。例えば、はた目には普通に睡眠をとっているように見えても、眠りが浅く夜中に目が醒めたりして苦しい体験をしていることは少なくないのです。また、意欲が出ない、何事もするのが億劫だ等といった症状は、表面からはなかなか見えづらい症状と言えます。

とても疲れやすいことを理解する

  不調の時期には、話したり人と会ったりすることさえ億劫になっていることが少なくありません。家族と話すのさえ億劫になります。そのような時は、長話をするのではなく、短い声がけを適度にした方が、本人に不要な負担をかけず、安心感につながります。

仕事や家事の負担を軽くする

十分な休養をとることが蓄積疲労から抜け出していく必要があります。そのために、仕事や家事等の負担を軽減する必要があります。普段本人がとっている役割を、誰かが肩代わりしてあげた方がよいでしょう。過大な期待を抱いて、本人を過度に励ましたり無理に頑張らせようとすると、うつ症状が悪化します。

薬物療法の必要性を理解する

  うつ病は、蓄積疲労がとても強くなった状態で、そこから抜け出ていくためには、単なる休養では不十分で、薬物療法の効果が大きいと言えます。主治医とよく相談して、必要な薬を服用することが回復していく上で、非常に重要です。また抗うつ薬は効果発現に2週間程度かかるため、回復には時間がかかることも頭に入れておきましょう。

周りからせかすことは避け、本人ペースでゆっくり療養

  本人のペースでゆっくりと回復していくのが一番よい回復のしかたです。家族のペースを押しつけてせかさない方が良い結果につながります。早く良く使用として本人を叱咤激励するようなことは禁物です。

出かけるかどうかは本人の意思を尊重する

  本人の回復のために良かれと思って、周りから外出・外食・旅行などを勧めたくなることが多いようです。しこし本人が自宅にこもりがちな時期は、まだエネルギーの充電が十分ではないのです。抗うつ薬が効果を表し、うつ症状が改善してくると、自分から自然に動けるようになってきます。本人が外出等をしぶる場合は、周りから無理に勧めるのではなく、本人の意向を尊重する必要があります。無理に外出等をさせようとすると、その時は無理をすれば動けるかも知れませんが、うつ症状が悪化します。

復職は普通に生活が送れるようになってからがよい

  仕事を休んでいる場合は、復職を急がせない。焦った復職は、再発の危険が高くなってしまうからです。十分に調子を回復し、元通りに生活が送れるようになってから、復職を考えるのがよいと言えます。復職に際しては、ストレスが本人の限界を越えないよう注意や工夫をしながら、長く働き続けることを目指していくのが最もよいやり方です。

良くなってからも再発予防が大事に

  うつ病から回復した後も、うつ病の再発に注意をしていく必要があります。そのためには、仕事や生活で降りかかるストレスが本人の限界を越えないようにするため、日頃の生活の中で疲れや不調をよくとらえながら、セルフ・コントロールの工夫をしていく必要があります。うまくセルフ・コントロールをすることができるようになっていけば、再発に早期に気づいたり、再発を未然に予防したりすることが可能となっていきます。

 (中    康)