思春期の若者が取り組む心の発達課題 -自分なりに生きる道を見出していく-
思春期にはいり、揺れ動く気持ち
子どもは、第二次性徴(男子では精通、女子では初潮)が始まることを境に、思春期にはいります。この時期には、自分の体の変化についての不安が湧く一方、子どもの自分ではなくなり大人になっていくことについての葛藤が起きていることも少なくありません。
体の変化と、同性の仲間集団にはいる不安
そのような中で、同性・同年代の友人たちの集団にはいっていくに際して、以前とは違っていろいろと不安になったり神経質になったりすることもしばしばみられます。自分の体は同性の他の子と比べてどうか、どちらが恰好いいか、男性として/女性として自分は大丈夫なのだろうか等が気になるようになります。そのような性的なことを含んだ悩みは、親には打ち明けづらく、やりとりする相手として、同性の友人の存在がとても大事になります。
親離れで得られる自分らしさ、その一方での不安定さ
親との関係では、親離れが次第に進んでくるため、親の価値観や考え方とは違った気持ちや考えを抱くようになります.そのような本当の気持ちや考えを親の前で表現することは不安や怖さが伴いますが、そのような不安や怖さを乗り越えていくことは、思春期の心の発達にとって、とても重要な課題となります。
そのような親離れは、楽しい面もありますが、寂しい気持ちに襲われることもあります。急に人と関わりたくなったり、それがうまくいかないと引きこもったりし、気分の変動が大きく気まぐれに見えやすいことも思春期の特徴です。
同性の友人関係が大事になってくる
この時期には親離れが次第に進む結果、何でも親の言う通りに従うことには抵抗を覚えるようになり、親の傘の下ではなく、自由に同年代の友人たちと交流することが楽しくなってきます。価値観を共有し、男性として/女性としてどのようにやっていくか、将来どのような道を歩んでいくかについてやりとりするようになります。この時期になると、親の影響よりも友人の影響の方が大きくなり、友人とやりとりする中で自分を作っていくようになってきます。この時期に同性の友人がいない場合には、孤独な思春期を送ることになります。
親離れとともに現れてくる親子の価値観の違い
思春期には、それ以前は100%だった親の存在が、いうならば50%位になり、残りの50%は家族外の様々な人々から取り入れて、こういうことが好きだ、こういう人になりたい、こういう道を歩みたい等の自分の価値観や夢 (自我理想) を作っていきます。具体的には、学校の先生や塾の先生、習い事の先生、友人、憧れのアイドルやスポーツ選手等の存在が大きくなってきます。そのような人々の気に入った所を自分の中に取り入れて自分のものにして (同一化)、親から取り入れた理想像を改訂して、自分なりの理想像を作り上げていきます。自分の頭や心で考えて選んだ道であれば、多少苦しくとも頑張りがきくというものです。
そういうことがあるために、親子であっても考え方の違いや価値観の違いが起きてくるわけです。そしてそのようなことを通して、自分の進路や将来進むべき道を見出していくことが、思春期の大きな課題となります。
性への関心と恋愛
一方、性的な成熟に伴い、大人の体を手に入れていくため、家庭外に恋愛の対象を探し求めるようになります。性的な関心や欲求を表現することは、両親との関係の中では抑えられている訳ですが、思春期の後半にはそのような関心や欲望を開放して(ブレーキをはずして)、異性との関わりをもつようになってきます。
親離れは、思春期の健康な心の発達の証
そのように自分をつくっていくプロセスは、一気に進んだりはせず、時間をかけて徐々に進んでいきます。そのような時期に、いつまでも親の言うことをきく良い子のままであったら、親離れをして個性的な自分を作っていくことが難しくなってしまいます。親にとっては思春期の対応は厄介な点が多々あるものですが、子どもが親離れをして、親とは違う考えをもったり親に反発したりできるようになることが、実は健康な発達路線を進んでいることを意味します。そのような思春期の発達課題を順調に獲得していくためには、自分の力でいろいろ考えたり試したりしていくことが不可欠です。そういう意味で、親の目の届かない個室があること、月ぎめの定額の小遣いがあること等も含め、ある程度の制限はありつつ、その範囲内であれば子どもが自由に考えたり行動できたりするような生活の枠組みが大事となってきます。そこで親の側からの、口出し・手出しが多すぎると、子どもが、自分の考えや感覚を大事にしながらのびのびと自分の世界を作っていく時に、足を引っ張りかねないことになってしまいます。
そのようにして、どのような進路に進んでいくか、どのような異性を選んでいくか等の大きな発達課題に取り組んでいくことが重要となる時期です。
思春期の発達課題の達成にまつわる誇りや劣等感
これまで述べてきたような思春期の発達課題を達成できると、とても自信がついて自分のことを誇らしく思えるようになるでしょう。しかしその発達課題をうまく達成できない場合には、劣等感やみじめな気持ちが湧いてくることもあるかも知れません。
少々不安だけど親に対しても自己主張できるようになっていくこと、同性の集団の中でやっていく上で不安があってもそこそこやっていけるようになること等が達成できたら、思春期の子どもの心は安定し、この道でいいんだと感じ、自我理想という名の明かりが灯り、その光が行く手を照らしてくれるようになると、前向きな気持ちで自分の選んだ道を歩んでいけるようになるでしょう。